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『ニューローズ ホテル』(1998年)

1990年代 インディペンデント SF

原題:New Rose Hotel

監督:アベルフェラーラ 原作:ウィリアム・ギブソン 脚本:アベルフェラーラ、クリスト・ゾイス 

出演:ウィレム・デフォークリストファー・ウォーケンアーシア・アルジェント、アナベラ・シオラ、天野嘉孝坂本龍一

 さらっと観てると内容が掴みづらい映画だが、実は物語はそれほど複雑ではない。メインキャストはデフィーとウォーケン、アルジェントの三人。デフォーとウォーケンは、優秀な研究者を誘拐まがいの手段でヘッドハンティングして企業に売り渡す闇の人材ブローカーみたいな怪しげな仕事を、コンビを組んでやっている。今回はバイオテクノロジーの日本人天才科学者イムリ・ヒロシ(名字はどんな漢字なのだろうか?)をハニー・トラップで操り、ライバル企業(ホサカ社という名前の日系ぽい企業。そのトップの役は坂本龍一)に10億ドルで売り渡そうと図る。そのハニー・トラップのエサにしようと、コールガールのサンディ(アルジェント)を説得・教育し、ヒロシの元に送り込む。首尾よく大金をせしめた…かと思われたその間際に、ヒロシをライバル企業に奪われることを察知した企業が謎の病原菌(?)をバラまき、ヒロシやホサカ社の手下やらなんやらを殺す。だがこの大どんでん返しの裏には、実はサンディの裏切りがあった…という話。

90年代に日本でも先端的なカルチャーの一つとしてメディアで人気のあったサイバーパンクSFのウィリアム・バロウズの短編が原作。バロウズのファンや、『ブレードランナー』みたいなSF映画を期待して観た人からは、超不評な映画だ。しかしフェラーラ監督の映画を何作が観てきた人間からすると、やっぱりフェラーラ的な作風だし、原作に忠実かどうかは別にして、むしろそれなりに上手くまとめてあるように思える。

SFっぽい映像があまりない、もしくはチャチいのは、低予算のせいだろう。同じセットでのシーンが多かったり、屋内中心など、低予算映画にありがちな作りだ。途中、東京らしき風景が挿入され、通りを和服の女性が歩いてたりするのだが、その映像が何となく旧いのである。この映画の制作された1990年代後半というより、80年代初めかもっと前にも見える。近未来のネオ・トーキョーという感じはゼロ。

フェラーラがこの映画で特に焦点をあてているのは、男と男、男と女の関係性とその生き様だ。ウォーケン演じるフォックス(Fox)とデフォー演じるエックス(X)は社会のアウトサイダーであり、刹那的な人生を生きるしかない男たちである。この男たちはグローバル大企業を相手に彼らを手玉とって大金をせしめようと謀る。極めてリスクが高く成功の確立が低いことが分かっていながら、自分の命を賭けてゲームを仕掛けるのである。

そしてアルジェント演じるサンディは、エックスにとっての「運命の女」だ。エックスは、教養がないサンディにヒロシを誘惑する恋愛の手管を仕込む、いわば教育係なのだが、いつしか本気になって彼女にのめり込んでしまう。アルジェントが気前よくヌードを披露して、セクシーな場面も数多くこなしていて好印象。それでいてどこか可憐な顔立ちで魅力的だ。

ウォーケンは、脚が悪い男という設定のせいか、やけに身体を揺すった動きが多い。その割には、途中軽快に踊ったりするのだが。複雑な役柄で、実はかなり演技に苦労したんじゃないだろうか。死に様が彼らしく意表をついていて素晴らしい。デフォーは安定の演技。

この映画のプロットは、SF+フィルム・ノワールなのだが、かなりフィルム・ノワール寄りといえるだろう。そういう映画だと思って観れば、面白いシーンは多い。それにしても90年代のアメリカ映画には、「日本趣味」や「日本企業」がよく出てくる。バブル経済期の日本が大量の日本車をアメリカに輸出し、三菱地所ロックフェラーセンターを買い取り、あのトランプ氏のプラザホテルの正面玄関にも、日本の国旗が(他の先進国とともに)堂々掲げられていた、という時代背景の反映だろう。もうそういう時代は二度と来ないような気さえするのが、ちょっと寂しいような。

ニューローズ ホテル [DVD]