『ロンリー・ブラッド』(1985年)

原題: At Close Range

監督:ジェームズ・フォーリー 脚本:ニコラス・カザン 

出演:ショーン・ペンクリストファー・ウォーケンメアリー・スチュアート・マスターソン、クリストファー・ペン

ストーリーはかなり暗く、フツーに笑える場面はまったくないが、S.ペンとC.ウォーケンの演技が素晴らしく、映画の後半は引き込まれる。

この映画では、ウォーケンとペンは父子の役だ。しかも、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』と同じく、父子は同じ名前を持つシニアとジュニアである。しかも、『キャッチ・ミー』同様、息子は父親に憧れ、愛し、自分の手本とする。違うのは、この映画では途中で息子の方が父親の生き方に疑問を持ち、離れることを決意するところだ。

何より、この映画の方の父親ブラッド・シニア(ウォーケン)は、完全な極悪犯罪者で、自分を守るためなら手段を選ばない冷酷な人物なので、『キャッチ・ミー』のフランク父子のような暖かみのあるシーンはほとんどない。父子の関係には、いつもどこか緊張感が漂っている。

ペンは当時20代半ばで、18か19歳くらいの役柄を演じているが、上手い。若い頃特有の純粋さや思い込みの強さを、繊細に演じている。ショーン・ペンといえば「泣き顔」演技が有名だが、この映画のラストでも存分に泣き顔を発揮。ディカプリオにしろペンにしろ、演技の上手い俳優は、若い頃から上手い。

ウォーケンはまだ40歳初め頃だろうか、『007』と同じ頃に撮影していた訳だが、アメリカの底辺層出身のギラギラした犯罪者の雰囲気を発散して、強烈な役どころだ。「血のつながり」とか「家族」とか口ではやたらと強調しながら、実は誰も心から信用しておらず、歪んだ価値観と愛情で息子を犯罪に巻き込む、サイコパスなどではないリアリティのある極悪犯罪者だ。 

ウォーケンのヒゲ顔には唐突感があるが、ヒゲ無しだと、ペンとは父子というより歳の離れた兄弟みたいに見えてしまうのでそうしたのかもしれない。いつもシャツの胸元がはだけていて、胸毛を少し見せていたり、ワイルドでいかにも女好きなおやじの雰囲気だ。ショーン・ペンはそんなに背が高くないのか、ウォーケンとペンが並んでいる後ろ姿のシーンで、長い脚がスッと伸びた長身のウォーケンの後ろ姿の方が、断然格好いい。容姿的には、もろイタリア系っぽいペンと親子の設定にはやや無理があるが、まあ母親似ということか。

この父親役は、最初ロバート・デ・ニーロにオファーがいったそうだが、「役が暗すぎる」との理由で、デ・ニーロは断ったとか。『007』の場合と同じく、他の俳優が断った役をウォーケンは演じたわけだが、どちらの映画の場合も、結果として彼にしか出来ない独特の名演となったところはさすがだ。

見どころ①映画の雰囲気上、ダンス・シーンは無理だが、さすがウォーケンはこの映画でもなんとか無理やり踊って(?)いる。盗品をさばいている倉庫で、ペンからかかってきた電話に出るためにウォーケンが倉庫の奥に歩いていく途中、ラジオから聞こえる曲に合せて、手を広げて軽くターン。

見どころ②この映画のラストで、ウォーケンに瀕死の重傷を負ったペンが、銃を突きつけている場面。何でも、この撮影の前に、「あいつは何をしでかすか分からない」と不安になったウォーケンは、事前に何度も銃がカラであることを確認したそうだが、いざ本番になると、いきなりペンが「他の銃を持ってこい!」と言って、ウォーケンが事前に確認したのと別の銃を突きつけたとか。それでウォーケンのあの銃におびえた演技は、実は本当に怖がっていたためとか(ソースは他の方のブログ)。しかし、ちょっと出来過ぎの話では?何となく、映画の宣伝のための都市伝説っぽいような気がする。まあそれくらい、ウォーケンの演技が真に迫っていたのだとも言えるが。

ウォーケンとショーン・ペンは、どちらも演技派だが、演技へのアプローチの仕方は随分違うように思える。ペンは、デ・ニーロと似ている。その役になりきり、とことん感情移入しようとする。「その役を生きようとする」のだ。役のために痩せたり太ったりマッチョになったり、実際にその役の人物と同じような生活環境に身を置いて過ごしてみたり、いわゆるデ・ニーロ・アプローチだ。この二人は、主役で光るタイプだ。彼らの演技の質が、映画全体のレベルや雰囲気を決定する感じだ。

一方、ウォーケンは、ジャック・ニコルソンと似ている。この二人は、どの映画でも非常に「キャラが立って」いる。「あの映画で彼が演じた、あのキャラは良かった」というふうに、強烈なイメージを残すが、良くも悪くも彼らの演じたキャラ(演技)の素晴らしさは、映画そのものの出来映えとは別なのだ。しかし彼らの出演場面は、非常に引きつけるものがある。

ショーンの実弟のクリス・ペンが、弟役で出演しているが、後年と別人のように痩せているのも必見。宗教画に描かれた天使のような、無垢な感じの優しい顔だ。しかしハリウッドで生き残るためには、後年の太った個性的な容姿のほうが、断然ニーズがあったのだろう。

瀕死状態のペンの顔色が、苦痛でみるみる赤くなっていくところも見どころ。自分を撃つことができないと見抜き、ふいに冷静になるウォーケンの冷たい眼も素晴らしい。

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