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『スリーピー・ホロウ』(1999年)

原題:Sleepy Hollow

監督:ティム・バートン 脚本:アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー

出演:ジョニー・デップクリスティーナ・リッチミランダ・リチャードソンクリストファー・ウォーケン

個人的には、ティム・バートンが最もバートンらしい映画を作り、そのどれもが映画として素晴らしかったのが1988年の『ビートルジュース』から、1999年の『スリーピー・ホロウ』までだったような気がしている。もちろんその後もバートンは『チャーリーとチョコレート工場』など興行的にも成功しているし、かなりバートン色が抑えられているが、『ビッグ・アイズ』は好きな映画だ(しかしよく考えてみると、映画そのものがどうというよりは、あの絵のインパクトの方が強い)。

ともあれ、90年代のバートンの映画が『シザーハンズ』に始まり、『スリーピー・ホロウ』に終わったことが興味深い。この二作に1994年の『エド・ウッド』を加えた三作が、バートン&デップの組み合わせの黄金時代だと思っている。

黒沢明三船敏郎小津安二郎笠智衆、スコセッシとデ・ニーロ、そしてバートンとデップ。それぞれの監督が俳優に要求するものを備えている俳優が、その監督の映画における名優となる。もちろんデ・ニーロもデップも、他の監督の作品でもいい演技はしているが、バートンのデップに対する手放しの褒めようを聞いていると、よほどデップはバートン好みの演技をするのだなと感心する。

イギリスのB級ホラーの映画制作会社ハマー・フィルムの雰囲気をバートンは意識して作ったらしい。ほかにもマリオ・バーヴァの映画やさまざまなB級ホラーを参考にしたようだ。そして俳優の演技はサイレント映画的な雰囲気を意識したという。つまりバートンにとっては大好きなものばかりがぎゅうぎゅうに詰まったのがこの映画というわけだ。

物語はアメリカ人なら誰でも知ってるという有名な昔話なので、映画に説得力を出すためにはビジュアルがすべてだ。バートンが敬愛する往年のハマー映画の名優、イギリス・アメリカの悪役俳優など、容姿そのものに相当インパクトのある俳優ばかりを集めて、バートンにとっては至福の撮影現場だったようだ。実際、長老4人の集まった場面は、映像だけですでに奇怪な雰囲気がたっぷりだ。

90年代のバートンの映画には欠かせない「異形者」「異端者」は、この映画では首なし騎士である。ウォーケンが特殊メイクで熱演。あまりの怖い顔に思わず笑ってしまうほどだ。

首なし騎士は劇中、唸り声をあげるだけでまったく言葉を発しない。それがいかにも怪物めいてみえるわけだが、しかし首のあった頃、彼は独立戦争のために外国の王から送り込まれたドイツ人の傭兵という設定である。理解できない異国の言葉は、自分たちの暮らすコミュニティーしか知らない人間にとっては騒音でしかない。つまり、生前の首なし騎士はもしかしてドイツ語を話していたかもしれないが、それがアメリカ人には怒鳴り声や唸り声(またドイツ語はそういう風な話し方が似合う)にしか聞こえず、まったくコミュニケーションがとれない不気味な存在と映ったのかもしれない、などとふと思った。アメリカ兵たちが鉄砲を背後から撃ちまくるなか、首なし騎士が雪深い森の中に逃げ込んでいく場面は、異端者が追われていく姿にも見え、少し憐れですらある。

バートンは、首なし騎士が愛おしそうに愛馬を撫でる場面を二回、劇中に盛りこんでいる。首なし騎士は人間であった頃も怪物となった後も、非情で残虐な性格だが、彼の愛馬にだけは愛情を注いでいる。短い登場場面の中に、あえてこうした場面を挿入したところに、やはりバートンらしい「異形のもの」への愛を感じた。

スリーピー・ホロウ [DVD]