『ラストマン・スタンディング』(1996年)

原題:Last Man Standing

監督:ウォルター・ヒル 脚本:ウォルター・ヒル黒澤明菊島隆三の脚本に基づく) 出演:ブルース・ウィリスクリストファー・ウォーケンブルース・ダーン

黒澤明の『用心棒』のリメイク、と聞いただけで、日本人としてはどうして観る目が厳しくなりがちだ。そのせいか、この映画に対する一般的な評価は良くない。しかし、黒澤映画とは別物として観れば、結構出来のいい映画だと思う。特にアクション・シーンは見ごたえがある。

大まかなストーリーは『用心棒』とほぼ同じだが、雰囲気はかなり違う。『用心棒』は凄惨で荒廃した雰囲気の中にも、ブラックユーモアやコミカルさがかなり入っていた。だがこちらの映画は終始、シリアスでハードボイルドな雰囲気だ。おそらく、プロットは『用心棒』、語り口は『用心棒』の元ネタのハメット作『血の収穫』に倣っているのではないだろうか。

ブルース・ウィリスは大根役者とよく言われがちだが、コミカルさやブラック・ユーモアの表現については、むしろ得意な方なのではないかと思う。ただ問題は、この映画ではそうしたウィリスの得意技が封印されていることだ。これはヒル監督の演出なのか、ウィリスの意図的な演技なのかは分からないが、彼の演じるスミスはやたらとシリアスで笑顔はゼロ、しかも表情がワンパターンなのだ。常に「眉間の皺とややすぼめた口もと」一辺倒。したがって、せっかくブラックユーモアを効かせた気の利いたセリフがあっても、まるで面白く聞こえない。

だがアクションの場面はいい。ウィリスがコルトM1911というやたら威力のある銃を二挺拳銃で撃ちまくる場面は、撃たれた人間が勢いよく後ろに吹っ飛ぶし、天井のガラスを突き破って人が落ちてくる。ウィリスは細やかな表情や目元の動きで演技するタイプではなく、身体を使った大きな身振りや、抑揚をつけたセリフの言い回しなどで表現するタイプなのではないだろうか。アクション・シーンになると途端に活き活きしてくる。ヒル監督もこの映画では主人公のキャラクターを深く描くことより、銃弾の数と派手なアクションの方を見せ場と考えているのだろう。もちろんこれもエンターテイメント性を高めるやり方ではある。

ギャングたちがずらりと並んで、燃えさかる酒場を眺めている後ろ姿は、独特の美しささえ感じさせる。死者の死に化粧を整える葬儀屋の怪人めいたミステリアスな雰囲気も、映画にある種の詩情を与えている。

ウォーケン演じるヒッキーは、かなり怖い。彼の演じたヴィランとしては、『トゥルー・ロマンス』のヴィンセンツォ・ココッティ、『ニック・オブ・タイム』のMr.スミス、そしてこの映画のヒッキーが、怖さではベスト3なのではないだろうか。

『用心棒』はそれぞれのキャラクターの造形がはっきりしており、濃いメイクとキャラクターの特徴を際立たせた衣裳は、時として劇画チックでさえあった。それに比べるとこの映画ではずっと現実的な表現になっている。仲代演じる卯之助は首元にスカーフを巻き、縞柄の着流しの裾をまくって歩き、ピストルをこれ見よがしに振り回すカッコつけたやくざだ。ヒッキーの方は、顔面に大きな傷があり、そのせいで目元がひきつっている。服装は蝶ネクタイにロングコート(セルジオ・レオーネおよびマカロニ・ウェスタンの引用か)で、他のギャングたちより洒落者っぽい。愛用の銃はトンプソンM1928という円形のドラムマガジンのついたマシンガンである。これは高価で、シカゴマフィアがよく使っていたらしい。ウォーケンの大柄な身体でこの銃をぶっ放す様子はインパクトがある。

ブルース・ダーン演じる保安官が、ウィリスの後ろ姿を見送りながら、帽子のつばを指先で軽くはじく仕草がかっこいい。

『用心棒』、セルジオ・レオーネの『荒野の用心棒』、そしてこの映画。基本的なストーリーの流れはほぼ同じだが、最後の決闘シーンは三者三様だ。『用心棒』の場合は、そもそも「刀VS銃」という無茶な対決なので、まず銃の使用を封じ込めてから一気に切りまくる。ただし、仲代演じる卯之助はなかなか事切れないので、殺傷場面そのもののあっけなさの割には、死ぬまでの描写がややくどい。『荒野の用心棒』は「銃VS銃」だが、まわりのザコを一斉に撃ちまくった後、イーストウッドの側が仕掛けてラスボスのヴィランと早撃ち競争みたいなことをして倒すが、ヴィランの主観ショットが挿入され、その死には余韻がある。『ラストマン・スタンディング』では、早撃ちになる前に、ヒッキーがマシンガンを投げ捨て背中を向けて、「丸腰のやつを背中から撃ったりしねえよな」と言う。このセリフは、『用心棒』で卯之助が、ピストルを渡すかどうか迷っている三十郎に、「もう弾は残ってねえよ」と言う場面に相当するだろう。実際は弾は残っていたし、ヒッキーも丸腰ではなかった。根っからの悪人、悪の性分みたいなものがこの両者のセリフに表現されている。

こうして観ると、なかなか面白い映画なのだ。それが評価いまいちなのは、やっぱりウィリスの演技のせいか。

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