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『マウス・ハント』(1997年)

1990年代 コメディ ファンタジー

原題:Mousehunt

監督:ゴア・ヴァービンスキー 脚本:アダム・リフキン

出演:ネイサン・レインリー・エヴァンスクリストファー・ウォーケン

一匹の賢いネズミを駆除しようとして逆に人間の方がコテンパンにされる、ドタバタ・コメディ。…と書くとバカバカしい映画みたいだが、実はかなり良作だ。

ファミリー向けなので全体としてはかわいい雰囲気の映画だが、ティム・バートンの昔の映画のようなダークさと軽い毒気がある。時代設定はよく分からないのだが、主な舞台になっている製糸工場と屋敷がかなり古色蒼然とした建物なので、1930~1960年代くらいのクラシックな世界に迷い込んだような感覚がある。だが、このアナクロな感じがまたいいのだ。

実際、内容は『トムとジェリー』みたいなものなので、そのあたりを意識して『トムジェリ』の全盛期だった1950~60年代の雰囲気にしているのかもしれない。『トムジェリ』でおなじみの「ネズミ捕り器」とチーズもたっぷり出てくる。ネズミを退治するためにフライパンを振り回したり、火の玉になって煙突から飛び出したりと、『トムジェリ』的な描写が盛りだくさんだ。ネズミは実写とCGを組み合わせているのだろうが、ワザとらしい感じではなく、首を傾げたりするしぐさや、ウトウト眠る様子など可愛らしい(個人的にはネズミのしっぽが苦手だが)。

主演二人(レイン、エヴァンス)のコスチュームもクラシックな雰囲気だし、工場の機械も古めかしい。クラシックな道具立てのおかげで、閉じたファンタジー世界が確立され、「異常に賢いネズミ」という設定にもすんなり入っていくことができる。

この映画の秀逸なところは、「ネズミの視点」から見た世界も映像にしているところだ。小さなネズミにとっては、小さな釘一本でも、身体を貫く鋭利な凶器だし、小さな水の流れも、迫りくる大津波のごとき脅威だ。そうした「小さく弱いもの」にとって、人間たちの世界がどのように見えるのか、そのことを映像で見せているところが素晴らしい。

あまり仲が良くない兄弟という設定のレインとエヴァンスの間の掛け合いや身体を張ったコミカル演技が絶妙で、テンポもいい。ファミリー向けを意識してか、二人とも分かりやすい演技だが、かと言ってコテコテ演技でもなく、まさにプロのコメディ俳優らしいスマートさがある。

ウォーケンの出演時間は短いが、変わり者の害虫駆除業者という役で、奇妙で大がかりな駆除道具を身に着けていたり、ネズミのフンを食べてネズミの体調を推測したり、強烈なキャラクターだ。こういう役を大真面目の渋い演技でやるところに、センスの良さを感じる。出番が少ないと思ったら、だいぶんカットされたようだ。DVDの特典に未公開シーンがいくつかあり、ネズミに逆襲されて変なダンスを踊る場面などもあったようだ。この映画は97分間なので、昨今の2時間や2時間半という長尺の映画に比べると、中だるみもなくあっという間に観れる点はいいのだが、この上映時間に収めるために出番が削られてしまったのは残念だ。

あまりにネズミの頭がよく、人間サマがコケにされっぱなしなので、『トムジェリ』と同じくネズミがだんだん憎たらしく思えてくるのだが、最後はやはり「良いネズミ」になって、兄弟とも仲良しになる。最後は家族(父子、兄弟)の愛と絆を浮かび上がらせて終わる。予想通りの展開なのだが、ホロリさせる作品。

マウス・ハント [DVD]