読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『デッド・レイン』(1999年)

1990年代 インディペンデント サスペンス ヒューマン・ドラマ

原題:The Opportunists

監督・脚本:マイルズ・コーネル 出演:クリストファー・ウォーケン、ピーター・マクドナルド、シンディ・ローパー、トム・ヌーナン、ベラ・ファルミーガ

原題の“The Opportunists”をどういう意味と捉えるかが難しい。これを“御都合主義者たち”“日和見主義者たち”と訳してしまうと、かなりネガティヴなイメージになってしまう。一方、Opportunistには“チャンスを逃さない人”“出来心を起こした人”という意味もあり、こちらの方がこの映画の内容にしっくりくる。

物語はシンプルだ。かつて天才的な金庫破り犯だった主人公ヴィク(ウォーケン)は、服役後はカタギになって自動車修理工として娘(ファルミーガ)と地味に暮らしている。だがヴィクは経済的にかなり困窮しており、昔の彼の腕前を知っている連中がしつこく金庫破りの犯罪に誘ってきていた。そこに、甥と名乗る若造(マクドナルド)がアイルランドから訊ねてくる。この若造が犯罪に誘う連中と手を組んだことにより、経済的に追い詰められたヴィクは、遂に金庫破りの計画に身を投じることになる…。

映画のオープニング・タイトルで流れる曲や画面の雰囲気は、フィルム・ノワール風だ。この映画はカー・チェイスも銃撃戦もないし、そもそも誰も死なない。犯罪場面は金庫破りをする場面だけ、登場人物もギャングやマフィアではなく一般人、という地味な内容なのだが、それでも監督はやはりフィルム・ノワールを意識していると思う。

まず分かりやすいポイントとしては、登場する私服警官の一人が「クラシック好き」という設定で、少し昔風の型のスーツにソフト帽を被り、見た目がそのままフィルム・ノワール風である。この警官はヴィクに自分のクラシック・カーの修理を依頼しているのだが、その車はビユイック製のリヴィエラという車種だ。車は詳しくないので確信はないが、デザイン的に1960年代前半くらいのものではないかと思う(フィルム・ノワールは50年代が主だが)。

フィルム・ノワールでは、主人公の人生を破滅させる・犯罪に巻き込む「ファム・ファタール(運命の女)」が登場する。この映画には主人公の恋人役としてシンディ・ローパーが出演している。ローパーは色っぽく、とてもいい雰囲気の演技をしているのだが、彼女の存在は物語の展開そのものにはまったく関わらないので、この映画の「運命の女」ではない。

では誰か、ということになると、まず「甥」が可能性として考えられる。こいつは見た目がいかにもダサく、うさん臭い雰囲気満載で、やたらと足手まといになったりするので観ていて腹立たしい存在なのだが、突然主人公の前に現れ、犯罪に巻き込んでいくので、「運命の女」っぽい(男だが)。しかし、実はこの映画の「運命の女」は、ビユイック製リヴィエラなのではないかと思うのだ。

ヴィクが経済的にいよいよ行き詰まり、犯罪に手を染めることになったのは、修理したはずのリヴィエラが突然壊れ、修理代を貰えなかったことがきっかけである。もちろんこれには裏があったのだが、とにかくこのことがその後のヴィクの運命に大きな影響を与える。この車の存在が重要であることは、映画の最後に、ヴィクが恋人の経営するバーに「リヴィエラ・バー」と名付けることからも明らかだ。

じっくり観るとなかなか良く出来ている映画で、出演している俳優も上手い。特にカギ犯罪のスペシャリスト?役のトム・ヌーナンは、見た目や仕ぐさ、表情などいかにもそれらしい説得力があって、非常に上手い俳優だと思う。

この映画はアメリカでもあまり知られていないらしい。実際、英語版ウィキのウォーケンの項でも、フィルモグラフィーになぜかこの映画のタイトルが入っていない。まあアメリカでは銃弾と爆薬を派手に消費するアクション映画でないと観客動員できないようだから、こういう地味なインディペンデント映画は興行的にはかなり難しいだろう(尤も、日本も最近では“壁ドン映画”かアニメでないと観客が入らないから、同じような状況だが)。

ウォーケンの出演場面は多いので、演技をじっくり観ることができる。この映画のヴィクは、ウォーケンがよく演じるサイコパスや変人・悪役といったエキセントリックなキャラクターではなく、寡黙で穏やかな普通人である。ある程度出演場面が多い映画では、微妙な目の動きや表情・セリフの言い方などで感情の動きを表現するウォーケンの演技が活きるので、俳優としてはやりがいがあるだろう。

見ごたえがあるのが、金庫破りの練習をする場面だ。こういうシーンは初めて観た。本番の金庫破りの場面ももちろんハラハラさせるのだが、この練習場面も面白い。はっきり言って、この二つの場面の見ごたえはウォーケンの演技にかかっているのだが、当然のごとく彼は素晴らしい緊張感で演じている。

デッド・レイン [DVD]