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『ローズランド』(1977年)

原題:Roseland

監督:ジェイムズ・アイヴォリィ 脚本:ルース・プラワー・ジャヴァラ

出演:ジェラルディン・チャップリンテレサ・ライト、リリア・スカラ、クリストファー・ウォーケン

この映画がアメリカで公開された1977年とは、『サタデー・ナイト・フィーバー』が公開された年でもある。どちらもニューヨークが舞台で、ダンスを軸にして人々が描かれるという共通点がある。しかし内容は正反対だ。『サタデー・ナイト・フィーバー』は当時の若者文化の一つであったディスコで毎週末踊ることを生きがいにした野心的で貧しい若者たちが織りなす青春映画。対して『ローズランド』は、ソシアル・ダンスのホールで踊ることで孤独や虚しさを埋めようとする寂しい高齢者たちが織りなす“人生の悲哀”映画である。

『SNF』が翌年には日本で公開され、ディスコ文化とジョン・トラボルタ、ビージーズの楽曲が世の中を席巻したのに対し、『ローズランド』が日本で公開されたのは1990年。これはおそらく、『眺めのいい部屋』(1986年)や『モーリス』(1987年)の日本公開とヒットにより、ちょっとした「ジェイムズ・アイヴォリィ・ブーム」みたいなものが起きた余波?だったのだろう。

しかし、当時の日本の観客がアイヴォリィに求めていたのは、「クラシカルな英国趣味」と「英国美青年」だったのだから、この映画は外してしまったに違いない。しかし、アイヴォリィはイギリス人だとばかり思っていたが、実はアメリカ人だったとは意外だった。

まあとにかく、この映画の存在も、この映画の内容も、きわめて“ひっそり”したものである。基本的に、配偶者に先立たれたり、生涯独身だったりして老いを迎えた人々の話なので、50~70代くらいの設定である。三つの異なるストーリーのオムニバスになっていて、第二話に登場するジェラルディン・チャップリンとウォーケンは、この映画のメイン・キャストの中ではかなり若い方だ(それでも30代くらいの設定だが)。

この頃のウォーケンは、マネキンのような美貌なので、金持ち未亡人のマダムが夢中になるジゴロの役は合っている。彼のダンス・シーンは思っていたよりも少ないが、おそらく正式のダンスが出来ることが、キャスティングの決め手になったのだろう。こういう役をどのように演じるかに興味があったのだが、「誰にでも優しい」「優柔不断」「貢ぎたくなる甲斐性のなさ」という見事なジゴロ体質の男を好演。「僕は自分が好きだよ。目も、髪も、横顔も、足の長さも」というセリフを言っても許される俳優はなかなかいないだろう。

しかし、高齢者を主人公にした場合に、男性と女性では描き方はかなり異なるようだ。老いた男が主人公の場合は、例えばアル・パチーノとウォーケンが共演した『ミッドナイト・ガイズ』ではバイアグラが出てきたり、北野武監督の『龍三と七人の子分たち』では藤竜也がやたらと放屁したりとか、とにかく下ネタ系の笑いに持っていくことが多いのだが、つまりはオスとしての性的な衰えや肉体的な衰えが、「老いの意味」として描かれるわけである。それに対し、高齢女性が主人公の場合は、容姿が衰えて異性に対する魅力がなくなったことによる哀しみとか、パートナーのいない寂しさといった精神的な欠落感が、「老いることのつらさ」として描かれるのである。

で、この映画の主人公の夫を先に亡くた高齢女性たちは、いつまでも最愛の夫のことを忘れられずダンス・ホールの鏡の中にその幻を見たり、若いジゴロの表面的な愛にすがって夫のいない孤独を紛らわしたりする。しかし、ちょっとこれは女に幻想を抱き過ぎではないだろうか?現実には、「やっと解放された」とばかりにイキイキしだす女性も多そうだが。カップル文化が主流の欧米では事情が違うのだろうか?

まあ結局は男性だから女性だからということよりも、個人差の問題という気はする。現実がどうなのかは、自分が年老いてみないと真には分からないのだろうけど。

Roseland [DVD] by Teresa Wright