読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『ミッドナイトチェイサー』(1991年)

原題:All-American Murder

監督:アンソン・ウィリアムズ 脚本:バリー・サンドラー

出演:チャーリー・シュラッター、クリストファー・ウォーケン、ジョシー・ビセット

オープニングタイトルでは最初にウォーケンの名前がクレジットされるが、この映画の主役はウォーケンではなくチャーリー・シュラッターである。

アメリカでは劇場公開されずに直接ビデオ発売されたようだ。日本のVシネマみたいなものか。しかも、22日間で制作されたという低予算早撮り映画である。

ストーリーは、放校処分をくりかえすアーティ(シュラッター)が、上院議員の父親から無理やり、エリートばかりのカレッジに編入させられたことから始まる。芸術家気質の彼は優等生ばかりの学校の雰囲気に馴染めないが、優等生の美少女タリーに出会い、一目ぼれする。彼女と親しくなり深夜のデートの約束をするのだが、なんと待ち合わせの現場の彼の目の前で、火だるま状態で殺されてしまう。放火の前歴があったアーティは当然疑われ、逮捕される。しかし変わり者の刑事デッカー(ウォーケン)だけはアーティの言うことを信じ、24時間与えるからその間に自分の無実を証明してみろと言う。アーティはカレッジの寮に戻り、秘密を探る。すると驚くべき事実がいろいろ判明するが、その度に彼の近くで猟奇殺人が起こり、どんどん追い詰められていく…。

このストーリーをみても分かる通り、映画の全編にわたって登場するのはシュラッターであり、ウォーケンの出演時間は多くない。しかし、ウォーケンが演じたデッカーという刑事のキャラクターがなかなか秀逸なのだ。この映画そのものがエログロ寄りではあるのだが、デッカーもセリフにやたら下ネタや下品なスラングが多いキャラクターである。面白いのは、デッカーが他者の心理をコントロールするためにそうした下ネタを利用するところだ。立てこもり犯や同僚の刑事やアーティの心理を、自分の意図する方向に向けるために、そういう話をするのである。ウォーケンは、ガラス玉のような無表情な目つきや淡々とした言い回し、相手の反応をみる表情などによって、デッカーのキャラクターに、下品さではなくインテリジェンスを与えている。彼の存在のおかげで、映画全体の雰囲気も引き上げられている。

1991年の映画だが、出演者の髪型や服装、音楽など映画全体は80年代の雰囲気だ。映画が始まって20分くらいは、完全に学園ラブロマンス映画のような展開でヌル~い感じで続いていくので、映画を間違えたのかと不安になってくる。しかし25分を過ぎたあたりから、ウォーケンが登場し、あとはかなりスピーディーに進んでいく。というより、そのあとは猟奇殺人や“衝撃の事実”の連続なのであっという間に過ぎていく。

海外のレビューを見てみると、この映画はイタリアの「Giallo」ものに影響を受けているという指摘がいくつもあった。

 ジャッロ: Giallo、発音 ['ʤallo])は、イタリアの20世紀の文学ジャンル、映画のジャンルである。フランス幻想文学犯罪小説ホラー小説エロティック文学に密接にかかわりがある。日本では、ジャーロと表記されることも多い。*1

 で、映画のGialloとは、

 映画におけるジャンルとしての「ジャッロ」は1960年代に始まる。「ジャッロ」小説の映画化としてはじまったが、すぐに現代的な映画技法の進化をともなって、ユニークなジャンルをつくりだした。イタリア国外で「ジャッロ」として知られる映画は、イタリアでは「スリリング」(thrilling) あるいはたんに「スリラー」(thriller) と呼ばれ、同語はまず、ダリオ・アルジェントマリオ・バーヴァといった1970年代イタリアの古典作品群を通常は指す。*2

 というものらしい。アルジェントやバーヴァの映画は観たことがないので、影響については分からないのだが、Giallo映画の特徴とされるショッキングな殺人シーンや、過剰な性描写、異常心理などはあてはまる。バーヴァのGiallo作品に出てくるという「黒い皮手袋に光る凶器をもった仮面の殺人者」というのも登場するので、やはり関係あるのだろう。しかしそういう指摘をしてるレヴューでさえも、この映画に対する評価は「アルジェントのチープな模倣」「凡作」と手厳しかったりするのだが。

個人的には、結構面白く観れた。この映画の脚本家のサンドラーは、この映画以前にケン・ラッセル監督の『クライム・オブ・パッション』(1984年)の脚本を書いている。あの映画ではキャスリーン・ターナーが、昼と夜では別の顔を持つ二重生活をおくる女を演じていた。二面性を持つ女がストーリーの軸になっている点が、この映画とも共通していて面白い。

All American Murder [DVD] by Christopher Walken

*1:「ジャッロ」ウィキペディアより

*2:「ジャッロ」ウィキペディアより