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『タイムトラベラー/きのうから来た恋人』(1999年)

1990年代 コメディ ファンタジー ラブロマンス

原題:Blast from the Past

監督:ヒュー・ウィルソン 脚本:ビル・ケリー、ヒュー・ウィルソン

出演:ブレンダン・フレイザー アリシアシルバーストーンクリストファー・ウォーケンシシー・スペイセク、デイヴ・フォーリー

荒唐無稽なストーリーだが、登場人物のキャラクターやセリフなど随所に笑えるところがあり、嫌味のないコメディだ。

核爆弾が落とされたと勘違いした発明家のカルヴィン(ウォーケン)は、身重の妻ヘレン(スペイセク)とともに、地下の自家製核シェルターで35年間暮らすことにする。シェルターで生まれ育った青年アダム(フレイザー)は、35年後、食料調達と結婚相手を見つけるために初めて地上に出る。偶然出会ったイブ(シルバーストーン)に一目ぼれし、彼女に食料調達を手伝ってもらいながら、親しくなっていく。時代とズレまくった好青年アダムに戸惑いつつも、イブも彼に魅かれていく…と、主に若い二人のラブストーリーを軸にして、パロディやシニカルなユーモアなども織り込みつつも陽気に進んでいく映画だ。

ウォーケンが演じる狂気と紙一重の天才発明家カルヴィンは、地下の核シェルターの中の創造主・まさに父なる神のような存在だ。外界から閉ざされた空間で、彼は植物や生物を育て、建物を修理し、シェルターの中の秩序の中心になる。そしてアダムに様々な学問や言語を教え、世の中のしくみや経済、(1950年代の)価値観や常識を教え、彼を理想的な男性に育て上げる。経済的な面でも、アダムは父カルヴィンから多くを与えられる。アダムはシェルターのロックが解除された35年後、カルヴィンに代わって食料を調達するために地上に飛び出すが、その時経済的に彼を助けるのが、父から子供の頃に贈られた野球のトレーディング・カード(超プレミアもの)なのだ。またアダムは、父から贈られたIBMなどコンピュータ企業の株券(35年の間に株価は爆上げ)のおかげで、莫大な資産も得ることになる。

つまり聖書のパロディなのだが、ただしこの映画では、楽園(シェルター)から追放されるのではなく、理想の女性(イブ)を探すために自ら出ていく。イブの親友としてゲイのトロイ(フォーリー)が登場し、ずっと彼女のそばで話し相手になったり助言したりするのだが、もちろんこれはイブにリンゴを齧らせた蛇だろう。しかしこの映画のイブは1990年代のアメリカで既に堕落(というほどでもないが、スラング言い放題のヤリマンとして設定されている)しているので、むしろトロイは彼女にアダムの誠実さや良さを説く側だったりする。

邦題はタイムトラベラーとなってるが、タイムトラベルものではない。しかし、確かに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の逆パターンみたいな雰囲気がある。というより、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のパロディにもなっている。カルヴィンが強烈な反共産主義だったり、カルト教団のパロディがあったり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』よりも毒があるコメディかもしれない。

フレイザーは、身体はデカイけど中身は純粋な少年のまま、という役柄がよくはまっている。これは彼のルックスに負うところが大きい。おそらく当時30歳近いのだろうが、明るく屈託ない表情ですごく若く見える。

アリシアは、『エクセス・バゲッジ』の時に比べると、美少女のオーラがなくなり、良くも悪くも普通の美人女優になった感がある。だが、やっぱりクセのある役柄だ。ヒネくれた役柄が似合うということは、結構個性派女優なのだろう。

ウォーケンとスペイセクの夫婦が何とも奇妙で独特な雰囲気だ。この二人には、それぞれスティーヴン・キング原作の映画でサイキックを演じたという共通点がある。そして『デッド・ゾーン』も『キャリー』も、キング原作の映画の中ではとても評価が高い。二人とも、異常だったり神経質な感じのキャラクターにタイプキャストされやすい俳優だが、この映画ではそういう従来のイメージとはまったく反対の役柄を演じている。

二人ともコメディのセンスがあり、二人の出てくるシーンは非常に面白い。ウォーケンもスペイセクもそれぞれのキャラクターの造形が秀逸で、特に父アルヴィンが35年ぶりの地上での“恐ろしい体験”を語って聞かせるときの二人のやりとり(特にスペイセクの表情)は爆笑ものだ。ウォーケンは薄毛ハゲの初老男性、スペイセクは1950年代でファッション感覚が止まった少女趣味な初老女性というビジュアルで登場するところも見どころ。ハッキリ言って変人夫婦なのだが、しかし、どこかかわいらしい夫婦なのだ。

映画のラストでは、今度はアダムがカルヴィンの庇護者として振る舞う。カルヴィンが現実をまったく受け入れず、共産主義の陰謀だと信じ込んだままのオチのつけ方にはちょっと納得しがたいものがあるが(いくら変わり者とはいえ、あれだけ頭のいい人間があんなに頑迷で情弱だろうか?)、まあとにかくハッピーエンドで終わらせているので、明るい気分のまま見終えることができる。

タイムトラベラー きのうから来た恋人 [DVD]