『ワイルド・サイド』(1995年)

原題:Wild Side

監督:ドナルド・キャメル 脚本:ドナルド・キャメル、チャイナ・コン

出演:アン・ヘッシュクリストファー・ウォーケン、ジョアン・チェン、スティーブン・バウアー

オープングとエンディング・タイトルではウォーケンの名前が最初に出てくるが、この映画の主役はアン・ヘッシュである。ただ、この頃のヘッシュはまだほとんど無名であったことから、ウォーケンが最初になったのだろう。

ヘッシュとウォーケンのキャラクターが非常に風変りで、魅力的だ。ヘッシュ演じるアレックスは、昼間は銀行員で夜は高級娼婦という二重生活をおくる女だ。彼女が売春する理由が、海岸沿いに建つ美しい邸の高額ローンを支払うためというのがあまり説得力がないが、そこはあまり重要ではない。

ウォーケン演じるブルーノは、巨額のマネーロンダリングで名をはせている人物で、警察から目をつけられている。たまたまコールガールとしてアレックスと出会い、彼女がただの娼婦ではなくFBIの捜査官ではないかと疑って、手下のトニー(バウアー)に彼女を探らせる。

実はトニーこそ覆面捜査官で、ブルーノを逮捕する機会を伺っていた。トニーはアレックスの家に押し入り、売春で逮捕されたくなかったら、捜査に協力しろと脅す。アレックスが銀行員と知ったブルーノは、自分の金融犯罪計画に彼女を協力させようとする。トニーは、この犯罪計画をブルーノ逮捕の好チャンスと考え、無理やりアレックスを計画に巻き込む。しかし、アレックスには別の考えがあった…。

内容的にはサスペンスやクライム・ストーリーなのだが、犯罪そのものよりも、その周辺にある暴力やセックス、ファッション、ブラック・ユーモアの方に重点があり、それらの描写に魅力がある。ユーモアは主にウォーケンが出演しているシーンに多く、またウォーケンの演技は彼にしては珍しくオーバーアクションぎみだ。彼はエキセントリックな役のイメージが強いが、演技は基本的に静かでさりげないものが多い。この映画のブルーノ役は、エキセントリックかつ奇妙なキャラクターで、ヴィランだがどこかに愛嬌がある。特に、トニーの裏切りを知ったブルーノが、トニーをレイプしようとするシーンはかなり笑える。

むしろバウアー演じるトニーの方が、エゴイストで暴力的な人物として描かれている。トニーがアレックスを自分の支配下に置くためにレイプするシーンは、生々しい暴力性と残虐さに満ちていて、まともな観客ならトニーに対する怒りと嫌悪を感じるだろう。つまりこの映画の中では、警官がもっとも邪悪な存在であり、犯罪者と娼婦はアウトサイダーではあるものの最悪の存在ではない。単に彼らの流儀で生きているボヘミアン的存在で、むしろある種の純粋さを感じさせる。

見どころは多い。アン・ヘッシュとジョアン・チェンのレズビアン・シーンは美しい。ヘッシュはコール・ガール、キャリア・ウーマン、男装と様々なファッションを見せてくれる。小柄だが、透明感のある白い肌や端正な顔立ちは非現実的な魅力がある。

ウォーケンの髪型は長めのオールバックで黒髪、『恋の選択』『アディクション』『ゴッド・アーミー』『サーチ&デストロイ』と同じである。同じような時期に撮影したのだろうか。ちなみに『ワイルド・サイド』ではブルーノの愛人役のチェンが、ウォーケンとよく似た髪型にしている。そこがまたこの映画の倒錯的な雰囲気を高める効果につながっていて面白い。

この映画を監督したキャメルは、ニコラス・ローグと共同で監督したミック・ジャガー主演の『パフォーマンス』(1968年)で知られているようだ。しかしウィキを見ると映画監督としては不遇だったようで、それ以来はほとんどまともな映画制作が出来ていないようだ。『ワイルド・サイド』はようやく得たチャンスだったようだが、プロデューサーと制作方針でもめてしまったらしい。結局、撮りおわったフィルムは取り上げられ、製作会社が勝手に編集しなおして公開(この映画は直接ビデオ化された)された。キャメルはそれを観てまもなく、ショットガンで自殺してしまった。気の毒すぎる話だ。その後、キャメルのノートに基づきフランク・マッゾーラが編集したものが、ディレクターズ・カット版としてリリースされたという。

ディレクターズ・カット版を観たいものだ。

ワイルド・サイド [レンタル落ち]